執筆・監修:尾形社会保険労務士・FP事務所
今回の記事では、傷病手当金の支給額の計算方法について計算例を使ってまとめてみました。
傷病手当金は、働けない期間の所得補償なので、「手取り金額がいくらになるのか?」を正確に把握することが重要です。
当記事をご覧いただくことで、傷病手当金の支給額から何がどのくらい引かれて、手取り金額はいくらになるのか?正確に把握できますので是非参考にしてみて下さい。
傷病手当金の簡易計算ツールを作成しました!
「月給」と「休業日数」を入力するだけで傷病手当金の支給額(目安)がわかるので、是非ご活用ください。
※上記ツールにて傷病手当金の受を支給額はわかりますが、支給額は手取り金額ではありません。当記事にて手取り金額も確認してくださいね。
傷病手当金の計算方法
傷病手当金の1日あたりの支給金額は、以下の計算式で算出します。
一日あたりの支給金額
=「支給開始日前の直近12ヶ月の各月の標準報酬月額を平均した額」÷30日×2/3
計算式だけでは、よくわからないですよね。。。
このあと具体例を使って解説していきますが、その前に「標準報酬月額」とは何か?確認しておきましょう。
「標準報酬月額」とは、毎年4月、5月、6月の3ヶ月間にもらった月額給与を足して、その期間の月数で割って得た額(4月+5月+6月÷3ヶ月)で「標準報酬月額」を決定しています。
これを定時決定といい、ここで決められた「標準報酬月額」は、原則その年の9月から翌年の8月まで使用します。(※給与の変動等により「標準報酬月額」が途中で変更になるケースもあります。)
定時決定は、4月、5月、6月に支払われる報酬月額のうち、支払いの基礎となる日数が17日以上あるもので算定しますので、例えば、4月と5月は30日分の報酬が支払われたが、6月は休職したため13日分しか支払われなかった場合は、4月と5月の報酬総額を2ヶ月で割った額で決定されます。
では、次に具体的な例を使い計算していきます。
計算例で確認
<例>
Aさんは「うつ病」で医師から「労務不能」と診断されたため、会社を休むことになり、その期間、傷病手当金を受給することになりました。傷病手当金の支給開始日が令和5年2月1日のケースを例に確認していきましょう。
まず、Aさんの「支給開始日前の直近12ヶ月の各月の標準報酬月額」から調べていきます。
Aさんは支給開始日が令和5年2月1日なので、「支給開始日前の過去12ヶ月」は、「令和4年3月~令和5年2月」です。
この期間の標準報酬月額を調べる必要がありますが、この期間中に標準報酬月額の定時決定期間が含まれているので、「令和4年3月~8月」と「令和4年9月~令和5年2月」の標準報酬月額をそれぞれ確認する必要があります。
①「令和4年3月~8月」までの標準報酬月額の調べ方
Aさんの令和3年9月~令和4年8月までの標準報酬月額を計算します。Aさんの令和3年4月・5月・6月の給与は以下とします。(※標準報酬月額の計算においては、通勤交通費も給与に含めて計算してください。)
4月給与:280,000円
5月給与:300,000円
6月給与:320,000円
4月・5月・6月の給与の平均額を計算します。
28万円+30万円+32万円=90万円
90万円÷3ヶ月=30万円
この30万円を↓の「報酬月額」に当てはめると「290,000円以上~310,000円未満」なので、Aさんの令和3年9月~令和4年8月までの標準報酬月額は「300,000円」となります。
よって、①「令和4年3月~8月」6ヶ月間の標準報酬月額は30万円となります。
②「令和4年9月~令和5年2月」までの標準報酬月額の調べ方
続いて、Aさんの「令和4年9月~令和5年8月」までの標準報酬月額を計算します。令和4年4月・5月・6月の給与は以下の通りです。(※標準報酬月額の計算においては、通勤交通費も給与に含めて計算してください。)
4月給与:260,000円
5月給与:290,000円
6月給与:290,000円
4月・5月・6月の給与の平均額を計算します。
26万円+29万円+29万円=84万円
84万円÷3ヶ月=28万円
この28万円を↓の「報酬月額」に当てはめると「270,000円以上~290,000円未満」なので、Aさんの令和4年9月~令和5年8月までの標準報酬月額は「280,000円」となります。
よって、②「令和4年9月~令和5年2月」6ヶ月間の標準報酬月額は28万円となります。
あとは、さきほどの計算式に当てはめて、一日の支給額を算出します。
一日あたりの支給金額
=「支給開始日前の直近12ヶ月の各月の標準報酬月額÷12ヶ月」÷30日×2/3
(30万円×6ヶ月+28万円×6ヶ月)÷12ヶ月÷30日×2/3=6,446円
(※30日で割ったところで1の位を四捨五入します。更に、2/3で計算した金額に小数点があれば、小数点第1位を四捨五入します。)
Aさんの一日に支給される金額は6,446円となります。
あとは、給付日数×6,446円=傷病手当金支給額で、Aさんの支給額を調べることができます。
(※傷病手当金の「給付日数」には、休日、土曜日、日曜日も日数に含まれます。但し、待期期間の3日間は除きます。)
<傷病手当金支給日額早見表>
「標準報酬月額」がわかれば、こちらの早見表が便利です。
支給開始日前の期間が12ヶ月に満たない場合は?
入社して間もない方など、支給開始日前の期間が12ヶ月に満たないときは、以下の①と②を比べて少ない方の額を使用して計算します。
①支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額を平均した額
②30万円(当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額)
<計算例>
4月1日入社(資格取得日)/ 各月の標準報酬月額:40万円 / 8月1日が支給開始日の場合
①は、40万円×4ヶ月÷4ヶ月=40万円
②は30万円
①>②なので、低い方の額「30万円」を使い支給額を求めます。(または、先ほどの早見表で確認してみてください。)
30万円÷30日×2/3=6,667円
よって6,667円が支給日額となります。
手取りはいくらになる?見落としがちな注意点を確認!
ここまで傷病手当金の支給額を確認してきましたが、実は傷病手当金の受給には注意しなければいけない点があります。それは「健康保険料+厚生年金保険料+住民税の支払い」です。
残念ながら、傷病手当金をもらいながら仕事を休んでいる期間でも、健康保険料や厚生年金保険料(育児休業中を除く)、住民税などの免除はありません。
傷病手当金の支給は協会けんぽや保険組合から直接振り込まれるため、本来、会社が天引きする健康保険料+厚生年金保険料+住民税が引かれていません。
そのため、後日、会社から「〇月分の健康保険料(+厚生年金保険料)と住民税を払ってください!」と連絡が来る場合があります。あとで慌てないためにも、「毎月支払うか?復職後にまとめて支払うか?」事前に会社の方針を確認しておきましょう。
手取りはいくらになる?
一月当たりの傷病手当金の手取りはいくらになるのか?計算例で確認していきましょう。
傷病手当金の支給額
標準報酬月額が28万円の場合、傷病手当金の支給日額は6,220円です。
30日間休んだ場合は6,220円×30日=186,600円
健康保険料+厚生年金保険料
標準報酬月額が28万円の健康保険料+厚生年金(東京都在住40歳未満の方の場合)は、39,620円になります。
- 健康保険料:14,000円
- 厚生年金保険料:25,620円
(※令和5年3月~の東京都の金額です。)
※自分の社会保険料が知りたい方はこちら
→ 社会保険料の自動計算ツール
住民税
住民税については、前年の所得や控除によって異なりますので、ここでは10,000円と仮定して計算してみます。
傷病手当金の手取り金額
計算式:傷病手当金支給額-(健康保険+厚生年金)-住民税=手取り額
186,600円-39,620円-10,000円=136,980円
手取り額は136,980円となります。
約5万円ほど、引かれることになりますね。
後日、会社から請求されることになりますので、準備しておきましょう。
終わりに
お疲れ様でした、以上が傷病手当金の支給額と実際の手取り金額の計算方法となります。
繰り返しになりますが、手取り金額の把握はとても重要なので、是非ご自身に当てはめて計算してみて下さい。
傷病手当金の支給申請書に書き方についてはこちらの記事でご紹介しています。こらから申請する方は参考にしてみて下さい。
■傷病手当金:申請書の書き方(うつ病)や申請期間を記入例で確認
それでは今日も最後までお読みいただきありがとうございました。