65歳になり年金をもらうようになると、国民健康保険料は、年金からの天引きで支払うようになります。その際、支払いは世帯単位となっており、世帯主がまとめて支払います。
例えば、夫が世帯主の夫婦2人世帯の場合、夫の年金から夫婦2人分の国民健康保険料が引かれる仕組みになっています。
そこで今回は、65歳以上(年金受給者)の夫婦2人世帯の国民健康保険料についてまとめてみました。夫婦2人分の保険料はいくらになるのか?計算方法を解説していますので、良かったら参考にしてみてください。
目次
国民健康保険料の内訳を確認
国民健康保険料を計算する前に、まず、国民健康保険料の内訳から確認していきましょう。
国民健康保険料は、上の図のように「医療分」「支援分」「介護分(※)」の3つから成り立っています。※介護分保険料は40歳~64歳までの方が負担することになっています。
更に、この「医療分」「支援分」「介護分」は、
■所得に応じて負担する「所得割」
■国保加入者全員が均等に負担する「均等割」
■国保に加入する全世帯が平等に負担する「平等割」
の3つで構成されています。※「平等割」がない自治体もあります。また、「資産割」という括りのある自治体もありますが少数なのでここでは省させていただきます。
65歳以上(74歳まで)の方の国民健康保険料は、「介護分」は計算に入れず、国民健康保険料=「医療分」+「支援分」となります。但し、65歳から(74歳まで)は、別途「介護保険料」が発生します。
65歳以上の年金受給者:夫婦2人世帯の国民健康保険料を計算
今回は65歳以上の年金受給者(夫婦2人世帯)の国民健康保険料ということで、以下の夫婦2人のケースで国民健康保険料を計算していきます。※ここでは公的年金等のみを受給しているケースを例に解説します。
<今回のモデルケース>
東京都23区在住
夫(69歳):前年の年金収入220万円
妻(68歳):前年の年金収入90万円
65歳以上(年金受給者)の方の場合、国民健康保険料は、以下の①~⑤の順に計算していきます。
①年金収入額を確認し、「公的年金等の雑所得」を計算する
↓
②軽減判定所得を計算する
↓
③算定基礎額を計算する
↓
④国民健康保険料を計算する
それでは、今回の夫婦2人のケースで①~⑤を順に計算していきましょう。
①年金収入額を確認し、「公的年金等の雑所得」を計算する
まずは、夫と妻それぞれの「公的年金等の雑所得」を計算します。「公的年金等の雑所得」はこちらの自動計算ツールで年金収入を入力すると簡単に計算できるのでご活用ください。⇒公的年金等の雑所得の自動計算ツール
※自動計算ツールで計算できた人は②にお進みください。念のため、以下で「公的年金等の雑所得」の計算例を解説します。
「公的年金等の雑所得」は、年金収入を以下の表に当てはめて計算します。
<公的年金等の雑所得の速算表>
年金収入の合計額 | 控除額の計算式 |
---|---|
1,100,001円~3,299,999円まで | 年金収入×100%-1,100,000円 |
3,300,000円~4,099,999円まで | 年金収入×75%-275,000円 |
4,100,000円~7,699,999円まで | 年金収入×85%-685,000円 |
7,700,000円~9,999,999 | 年金収入×95%-1,455,000円 |
10,000,000円以上 | 年金収入×100%-1,955,000円 |
※公的年金等の収入の合計額が1,100,000円までの方は、「公的年金等の雑所得」は0円となります。
今回の夫の年金収入は220万円で、「1,100,001円~3,299,999円まで」に該当するため「年金収入×100%-1,100,000円」を使って計算していきます。
2,200,000円×100%-1,100,000円=1,100,0000円
よって、夫の「公的年金等の雑所得」は110万円となります。
次に妻の公的年金等の雑所得を計算していきます。妻の年金収入は90万円です。年金の収入の合計額が110万円までは、公的年金等の雑所得は0円となります。
よって妻の「公的年金等の雑所得」は0円となります。
②軽減判定所得を計算する
続いて、国民健康保険料は世帯の収入によって、保険料の「軽減」が適用される場合があります。そのため、ここでは、「国民健康保険料の軽減が適用されるか?」を確認します。
軽減判定所得の計算は、世帯主を含めた加入者の総所得金額を合計して計算します。また、65歳以上で公的年金等の雑所得が15万円以上ある場合は、特例控除として公的年金等の雑所得から15万円を差し引くことができます。
よって、今回の夫婦2人の場合、軽減判定所得を求める計算式は以下のとおりです。
軽減判定所得=(夫の公的年金等の雑所得-特例控除15万円)+妻の公的年金等の雑所得
(110万円-15万円)+0円=95万円
軽減判定所得は95万円となります。
この軽減判定所得95万円が以下のいずれかの金額を下回っていれば、国民健康保険料の「軽減」が適用されます。
基礎控除43万円 +{10万円×(給与所得者等の数-1)} |
7割軽減 |
---|---|
基礎控除43万円 |
5割軽減 |
基礎控除43万円 +(52万円×被保険者数) +{10万円×(給与所得者等の数-1)} |
2割軽減 |
※給与所得者等とは給与収入が55万円を超えていて、なおかつ年金収入が110万円を超えている人のことです。
※表中の{10万円×(給与所得者等の数-1)}の部分は、給与所得者等の数が2人以上の場合にのみ適用されます。
今回の軽減判定所得95万円は、真ん中の「43万円+(28.5万円×被保険者数)+{10万円×(給与所得者等の数-1)}」⇒43万円+(28.5万円×2)=100万円を下回っているので、国民健康保険料の「医療分保険料の均等割」と「支援分保険料の均等割」が、5割(50%)軽減されることになります。(※東京都23区の場合)
詳しくは、このあとの「④国民健康保険料を計算する」で解説していきます。
算定基礎額を計算する
算定基礎額は、①で計算した年金所得から基礎控除43万円を差し引いた額となりますので、計算式は以下のとおりです。
算定基礎額=年金所得金額-43万円(基礎控除)
夫の算定基礎額は(110万円-43万円)=67万円
妻の算定基礎額は(公的年金等の雑所得が0円なので)0円
ここで算出された算定基礎額は、このあと国民健康保険料を計算する際に使いますので、メモにとっておてください。
※算定基礎額は所得税や住民税とは違い、配偶者・扶養・社会保険料・生命保険料等の各種控除は適用されませんので、注意してください。
また、年金以外にも収入がある場合はそれぞれの収入額から所得額を合算し、基礎控除43万円を引いた額となります。
④国民健康保険料を計算する
国民健康保険料の計算には、以下の計算式を使います。
国民健康保険料=医療分+支援分
(65歳以上の方には介護分はありません。)
まず、医療分と支援分の「所得割」「均等割」「平等割」を計算します。
国民健康保険の「所得割率」「均等割額」「平等割額」は各自治体ごとで異なります。
ここでは、東京23区(令和4年度)のケースで計算しています。※東京23区は「統一保険料方式」が採用されており、保険料は同額です。(※千代田区・中野区・江戸川区は独自の保険料率を定めています。)また、「平等割」はなく「所得割」と「均等割」のみとなります。
医療分を計算する
夫と妻の医療分の所得割と均等割を計算し、その合計を算出します。※平等割がある自治体にお住まいの場合は平等割も合計に入れて下さい。
<所得割を計算する>
医療分の所得割=算定基礎額×7.16%
※この「7.16%」とは東京23区(令和4年度)のケースです。所得割率は各市区町ごとで異なりますので、注意してください。
夫の算定基礎額は③で計算した67万円なので、67万円×7.16%=47,972円
夫の医療分保険料の所得割は、47,972円です。
妻の算定基礎額は③で確認したとおり0円なので、妻の医療分の所得割は0円となります。
夫婦2人分を合算すると、47,972円+0円=47,972円
よって、この夫婦2人世帯の医療分の所得割は47,972円となります。
<均等割を確認する>
東京23区の医療分の均等割は1人につき42,100円ですが、ここで先ほどの軽減5割(50%)を適用します。
夫の医療分の均等割は21,050円
妻の医療分の均等割は21,050円
夫婦2人分を合算すると、21,050円+21,050円=42,100円
よって、この夫婦2人世帯の医療分の均等割は42,100円となります。(医療分保険料の均等割は各市区町村のホームページ記載されています。)
そして、所得割+均等割=医療分合計を計算します。
47,972円+42,100円=90,072円
この夫婦2人世帯の医療分保険料の金額は90,072円となります。
(世帯限度額は65万円です。)
支援分を計算する
支援分の所得割と均等割を計算し、その合計を算出します。※平等割がある自治体にお住まいの場合は平等割も合計に入れて下さい。
<所得割を計算する>
支援分の所得割=算定基礎額×2.28%
※ここでの「2.28%」は東京23区(令和4年度)のケースです。所得割率は各市区町ごとで異なりますので、注意してください。
夫の算定基礎額は③で計算した67万円なので、67万円×2.28%=15,276円
妻の算定基礎額は③で確認したとおり0円なので、妻の支援分の所得割は0円となります。
夫婦2人分を合算すると、15,276円+0円=15,276円
よって、この夫婦2人世帯の支援分の所得割は15,276円です。
<均等割を確認する>
世田谷区の支援分の均等割は1人につき13,200円です。但し、ここでも先ほどの軽減5割(50%)を適用します。
夫の支援分の均等割は6,600円
妻の支援分の均等割は6,600円
夫婦2人分を合算すると、6,600円+6,600円=13,200円
よって、この夫婦2人世帯の支援分の均等割は13,200円となります。(支援分保険料の均等割は各市区町村のホームページ記載されています。)
そして、所得割+均等割=支援分の合計を計算します。
15,276円+13,200円=28,476円
この夫婦2人世帯の医療分保険料の金額は28,476円となります。
(世帯限度額は20万円です。)
国民健康保険料(医療分+支援分)を計算する
最後に、医療分と支援分を合計して、国民健康保険料を算出します。
90,072円+28,476円=118,548円
今回の夫婦2人世帯の国民健康保険料(年額)は、118,548円となりました。(1ヶ月あたりの保険料は9,879円です。保険料の100円未満や10円未満を切り捨てる市区町村もあります。)
おわりに
今回の国民健康保険料の計算は東京23区のケースで計算しましたが、所得割率や均等割額、平等割額は各自治体ごとに異なります。
ただ、保険料の計算方法は同じになりますので、今回の計算例を参考にしてみてください。
65歳以上の保険料
65歳以上の方の保険料は、
- 国民健康保険料(または、社会保険料)
- 介護保険料
この2つがかかります。そして、国民健康保険料と介護保険料は原則年金からの天引きです。
こちらの記事で、65歳以上の年金受給者の方を対象とした介護保険料の計算方法をまとめましたので合わせてご参照ください。
それでは、本日も最後までお読みいただきありがとうございました。