執筆・監修:尾形社会保険労務士・FP事務所
「年金と失業給付を同時にもらうことはできますか?」これは退職を控えている65歳前の人からとても多い質問です。
結論から言うと「65歳からの年金」と「失業給付」は同時にもらうことができますが、次の2つのタイミングを整理しておく必要があります。
- 退職日
- ハローワークでの手続き
この記事では、 退職を控えている65歳前 の方に向けて「年金と失業給付の併給方法」について詳しくご紹介します。
目次
失業給付の仕組み
まずは雇用保険の失業給付の仕組みを整理しておきましょう。
65歳前に退職したほうが失業給付を多くもらえる
雇用保険の失業給付は、退職日が65歳の前か後かで大きく異なります。
- 65歳前の退職 ⇒ 基本手当(一般的に失業保険と呼ばれているものです)
- 65歳以後の退職 ⇒ 高年齢求職者給付金
一般的な例として、20年以上勤めた会社を定年退職する場合、受給できる給付日数は基本手当が150日分、高年齢求職者給付金は50日分となり、受給金額も基本手当の方が約3倍多く受給できます。
つまり、65歳前に退職して基本手当を受給した方がお得なんですね。
65歳になるのは誕生日の前日
注意していただきたいのは、65歳になる日です。
雇用保険法では「誕生日の前日が年齢到達日」という取扱いのため、65歳になるのは誕生日の前日です。
例えば8/20が誕生日の場合、8/19に65歳になります。よって、誕生日の前々日8/18までに退職すると基本手当、8/19以後に退職すると高年齢求職者給付金となります。
ここまでをまとめると、1つ目のポイントは次のようになります。
65歳誕生日の前々日までに退職すると基本手当を受給できる。基本手当は高年齢求職者給付金より受給額が多い。
次に、本題の「年金と基本手当を同時に貰えるか?」について見ていきます。
年金と基本手当の調整
現在年金は、原則65歳からの受給ですが、受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられたときの経過措置として、60~64歳で受け取る「特別支給の老齢厚生年金」があります。
この65歳前の「特別支給の老齢厚生年金」と「基本手当」は併給できません。ハローワークに求職の申込み(=基本手当の受給手続き)をした月の翌月から「特別支給の老齢厚生年金」は全額支給停止となるのでご注意ください。
一方、「65歳からの年金」は ハローワークに求職の申込み(=基本手当の受給手続き) をしても支給停止にはなりません。つまり、基本手当との併給が可能です。
具体例でみてみましょう。
(例)65歳の誕生日が8/20の場合、「65歳からの年金」は9月分から支給が始まります。誕生月である8月中に求職の申込みをすると、本来は翌月9月分から支給停止になりますが、9月分は「65歳からの年金」なので支給停止されず、年金と基本手当が併給できます。
よって、ハローワークで求職の申込みをするタイミングは次のとおりです。
65歳の誕生月以降にハローワークで求職の申込みをすれば、年金と基本手当は併給出来る。
結論
年金と失業給付は同時に貰うことが出来る。退職および求職の申込みの時期のポイントは次の2点。
- 65歳誕生日の前々日までに退職すると基本手当を受給できる。基本手当は高年齢求職者給付金より受給額が多い。
- 65歳の誕生月以降にハローワークで求職の申込みをする。
(例)
①65歳の誕生日の2週間前に会社を退職。
②離職票が届き(65歳になってから)ハローワークで失業(求職)の申請。
③7日待機
④2ヶ月の給付制限(自己都合退社のため)
⑤2ヶ月後から基本手当の受給開始
注意点を確認
働く意思がないと失業給付はもらえません
失業給付は「会社を定年退職したから貰える」というわけではありません。定年退職後も働く意思と能力があることが受給要件となっています。結果として再就職しなくとも返金とはなりませんが、 働く意思と能力を有することが前提になっていることを認識しておきましょう。
退職金の支給条件を確認しておきましょう
会社によっては定年65歳直前で辞めた場合は退職金が減額されてしまうケースもあると思いますので、事前に確認した上で手続きをするようにしてください。
基本手当の期限は退職日の翌日から原則1年間
基本手当受給中に1年を経過すると、給付日数が残っていても受け取れなくなってしまうのでご注意ください。但し、申出をすればもう1年分、つまり2年まで受取期間を延長することも可能です。延長を希望する場合は、退職日の翌日から2か月以内に延長の申出が必要です。
※1年間は、申し込んだ日からではなく退職日の翌日から数えて1年間ですので注意してください。